2011年10月17日

チェルノブイリとの汚染比較 プルトニウム239、240について

■プルトニウム239、240について

こちらも当初から問題視されていたプルトニウム汚染ですが、大分資料が出来てきましたので掲載します。

pu239-240.jpg
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参考資料
http://radioactivity.mext.go.jp/ja/distribution_map_around_FukushimaNPP/0002/5600_0930.pdf (P8 Fukushima)
http://www-pub.iaea.org/mtcd/publications/pdf/pub1239_web.pdf (P147 Chernobyl)

今回文科省の調査結果を見る限り、チェルノブイリにおける最低ラインの閾値である100Bq/m2以上の汚染が見あたらなかった為、上のような図になりました。

そもそもプルトニウムは冷戦時代の大気圏核実験によって降下したものもあり、日本では最高で220Bq/m2を検出した場所もあるそうです(文科省資料参照)。今回の調査においては、最高値は15Bq/m2と、大気圏核実験による最高値よりも低い結果となりました。科学的にこれらが福島産のものかどうかというのは、プルトニウムの比率によって、どうもそうらしいと分かるレベルらしく、では健康への影響はという問いには、核実験によって降下したもの以上の健康的影響はないと言って良いかと思います。

「プルトニウム2万3000倍」のエントリーにおいて、今回の福島原発における放射性核種の放出量のシミュレーション値が書いてありますが、ストロンチウムもそうですが、どうもこのシミュレーション値よりも実際の陸地への沈着汚染が低いような感じがします。例えばストロンチウム90は福島ではシミュレーション上は140兆ベクレルも放出している訳でして、チェルノブイリのプルトニウム239、240の合計値である30兆ベクレルより多い訳です。であるならば、少なくともストロンチウム90の地図はチェルノブイリのプルトニウム239,240地図よりも重い汚染地図になっても良さそうなものです。チェルノブイリのプルトニウム地図では上記のように40万Bq/m2以上の地域もあります。

これまた素人考えですが、恐らくこの違いは炉が爆発したか、しないかの違いなのではないかと思います。チェルノブイリの南西に見られる所謂レッドフォレストと呼ばれる高濃度汚染地域は爆散した燃料が飛び散った場所と言われており、ガスになって浮遊したというよりも、多くの放射性物質が爆発の影響で放物線を描いて飛んできたのでしょう。特に上記のプルトニウムの汚染地域をよく観察すれば顕著にその特徴が出ています。原発から約数キロの範囲であるレッドフォレストは40万Bq/m2以上という高濃度汚染地域なのに比較してほんの20kmも南西に行けばたった100Bq/m2以下の地域になり、比率4000分の1という非常に顕著な落差が現れてます。セシウムやストロンチウムに関しては2000万Bq/m2から4万Bq/m2以下というように比率は500分の1であり、また広範囲な地図になればセシウムやストロンチウムはプルトニウムよりも遙か遠くに飛んでいることがわかります。逆に以下の地図に表すようにプルトニウム3700Bq/m2以上の地域は30km圏内にほぼ収まり、セシウム等のように遠い場所にホットスポットを作らなかったそうです。



福島のストロンチウムの飛散に関してはまず第1に、シミュレーション上の放出では計れない原発施設内での沈着、要は建屋の壁に沈着したり等でシミュレーションの値よりも激減し、そしてチェルノブイリにおけるプルトニウムの地図と全く違い、非常に薄く広く飛んだものと考えるのが自然かもしれません。プルトニウムの飛散に関してもガスと一緒に運良く飛んだものもあるでしょうが、それでも殆どがふるい落とされて、最終的には核実験時に降下したものと見分けが付かない程の濃度しか飛ばなかったというのが真相ではないでしょうか。

蛇足になりますが、よく「プルトニウムは飛ばないなんて嘘だ!核実験で飛んできたじゃないか!」という論を見掛けますが、、核実験の爆発力はチェルノブイリの爆発や福島の水素爆発などとは比較にならない程のものです。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%84%E3%82%A1%E3%83%BC%E3%83%AA%E3%83%BB%E3%83%9C%E3%83%B3%E3%83%90

ノバヤゼムリャで行われたツァーリボンバ(皇帝の爆弾)では中間圏である高度60kmのキノコ雲が、ビキニ環礁で行われたキャッスルブラボー実験では36kmのキノコ雲ができる程の爆発です。ここまでの爆発であればまき散らされた塵はジェット気流にのって世界各地に降り注ぐ訳でして、、その塵に付着したプルトニウムも世界にまんべんなく行き渡ったでしょう。ビキニ環礁の実験で被曝した第五福竜丸は非常に有名ですが、彼らは爆心地から160kmも遠くで操業していたそうです。風向きが悪かったせいでヨウ素をたっぷり含んだ死の灰を浴びてしまい、平均2Sv(2000mSv、200万μSv)の被曝をしたと言われています。これを福島原発の3号機の爆発と比較すれば、核実験による爆発の威力という物が推し量れるでしょう。
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チェルノブイリとの汚染比較3 ストロンチウム90について

■ストロンチウム90について

事故当初から非常に憂慮されていたストロンチウム90についてですが、文科省から原発周辺の調査が上がってきました。セシウム137にならい原発近郊地図における比較を作成しました。

Sr90.jpg
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参考資料
http://radioactivity.mext.go.jp/ja/distribution_map_around_FukushimaNPP/0002/5600_0930.pdf (P9 Fukushima)
http://www-pub.iaea.org/mtcd/publications/pdf/pub1239_web.pdf (P146 Chernobyl)

文科省の調査を見る限り、今回の事故におけるストロンチウムの放出は非常に限定的と言えます。最高濃度の場所で双葉町付近の5700Bq/m2ということでチェルノブイリの最低の閾値である20000Bq/m2(20kBq/m2)には届いていない点で地図比較にならない程です。もっとも原発構内や建屋周辺ではある程度高い場所もあるかもしれませんが、現時点では書き加える材料がありません。また文科省のデータは現在全ての数値を入力した訳ではありませんが、GoogleMapに数値を落としておきましたので、こちらも参考にしてください。


より大きな地図で ストロンチウム90地図 を表示

図を見る限り、チェルノブイリにおいてはセシウム137、ストロンチウム90が同じような場所を汚染しているのに対して、福島においては随分違う場所が汚染されている点に気づきます。福島の場合はセシウム137は原発近郊では最初南と西を汚染し、少し離れて飯舘村方面の北西へ延びる汚染に対して、ストロンチウム90は最もセシウム汚染の酷い夫沢や原発真西の国道近辺ではそれ程高くなく、逆にセシウム汚染が比較的少なかった原発直近の北方面の双葉町役場傍や南相馬方面で比較的高い状況になっています。

以下は素人なりの推論ですが

http://www.meti.go.jp/press/2011/08/20110826010/20110826010-2.pdf

シミュレーションによって出された各号機における放射性物質の放出量を見る限り、今回のセシウム汚染の9割近くを放出した2号機のストロンチウム放出量が比較的少なく、14日に水素爆発した3号機のストロンチウム放出量が多い点に目がいきます。割合としては2号機が3割、3号機が6割といったところでしょうか。

また今回の事故とチェルノブイリを比較するとチェルノブイリが炉その物が崩壊、爆発したのに対して、福島においては汚染の中心物質であったヨウ素やセシウムはベント、あるいは格納容器や抑制室の機密漏れによって主に排気筒から高濃度の放射性物質として放出された違いがあるのではないかと、そしてストロンチウムに関しては水に溶けやすい性格であるため、か細くでも一応は行われていた注水によって大部分が水溶化し、大部分は汚染水に溶け、一部は蒸気になって建屋に充満したのではないでしょうか。そして3号機の爆発によって比較的多く飛び散り、主に北側を汚染することになった故に、セシウムとの汚染分布の違いになったのではないかと。まあ素人の戯れ言ですが、、

いずれにせよチェルノブイリと比較すれば濃度的にはセシウムなどとは比べ物にならない程低い濃度の汚染ということになるかと思います。ちなみにこの汚染が一体どの程度のものなのかに関しては冷戦期の大気圏核実験で各地に降下したストロンチウム90の資料があります。

http://psv92.niaes3.affrc.go.jp/vgai_agrip/sys_top.html

こちらのサイトなどで調べる限りkgあたり30Bq程度の汚染は普通にあったようです。m2に変換すると一体どれくらいになるのかはハッキリしませんが、20倍だとしても600Bq/m2、良く言われる50倍や65倍という変換係数を使えば(もっともこの変換係数は自分としては少々過大だと思いますがが、、)1500Bq/m2から2000Bq/m2になる訳でして、最高濃度の汚染地域で、大気圏核実験が行われていた時代の2〜10倍といった所です。またこれ程の汚染地域ではセシウム汚染の方が遙かに問題が大きい為、農作物が作られることはないでしょう。セシウム汚染との比較において、ここまで大きな差が付く点で、現状陸地においては対策核種に入れる必要はないと考えます。(セシウム対策をすれば大体ストロンチウムの対策にもなる)

ストロンチウムに関しては問題なのはむしろ海洋汚染の方だと思います。水溶性のストロンチウムは注水によって水に溶けて汚染水になったと言いましたが、4月に海洋に漏れだした汚染水は非常に気がかりです。どれだけのストロンチウムが含まれていたかは定かではありませんが、東電の6月発表の資料で5月に採取した漏洩した汚染水のピット近くの海水分析結果が載っています。

http://www.tepco.co.jp/cc/press/betu11_j/images/110612h.pdf

これを見る限り対セシウム比においてもかなりの比率でストロンチウムが汚染水に溶けていることが分かります。もちろんこの調査だけではどの程度の汚染なのかは未知数ですが、そのためにも魚介類の調査などをしっかりやるのが得策でしょう。
posted by mockmoon at 21:26| Comment(212) | TrackBack(0) | 記事

チェルノブイリと福島原発の汚染比較2 セシウム137について

前々回の比較記事では要点をまとめず、ダラダラと書いてしまいましたが、大分前回より資料もそろってきたので、重に地図に落とした形での比較を行っていこうかと思います。今回比較する核種はセシウム137、ストロンチウム90、プルトニウム239と240の合計値の3点です。

本来であればセシウム134やストロンチウム89についても比較地図を作りたいところですが、実はこの2核種に関してはチェルノブイリにおける明確な資料がありません。何故ならこの二つの核種は半減期がセシウム134の場合は2年、ストロンチウム89の場合はたった50日と短い為、民主化によって事故5年後あたりから調査が本格化するまでに、重要な核種ではなくなった点と、検出も難しくなったという理由があるからです。また以下比較対象する資料に関しては、福島については事故後1年も経過していない現時点でのものに対して、チェルノブイリの物は事故後10年以上たってからの調査のものもあり、一概に比較対象にするべきではないかもしれませんが、その点を加味した上でご覧頂ければと思います。

■セシウム137について

cs137.jpg
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参考資料
http://radioactivity.mext.go.jp/ja/1940/2011/08/1940_0830_1.pdf (Fukushima)
http://www.nnistar.com/gmap/fukushima.html (Fukushima)
http://www-pub.iaea.org/mtcd/publications/pdf/pub1239_web.pdf (P146 Chernobyl)

まずセシウム137について原発近辺の比較地図です。これはチェルノブイリの方が事故後11年経過して出された地図である為、当初のものよりも相当軽減されている事が予想されます。本当に公正な比較をするのであれば福島のほうも11年後に航空モニタリングをして調べるべきなのでしょうが、あくまでも参考として頂ければ。また文科省の航空モニタリング地図を参考に作ったもので、各々の閾値が違う為、文科省の閾値の中間点等を大まかに線を引いて作ったものですので、厳密な地図ではありません。あくまでも大まかな参考として見て頂ければと思います。また文科省のモニタリングでは原発周辺10kmは省略されていますので、この部分は@nnistarさんの地図を参考にさせて頂きました。目安としては

http://www-pub.iaea.org/mtcd/publications/pdf/te_1162_prn.pdf

を参考にCs137とCs134が同等であると仮定して、2000kBq/m2の場所は15μSv/h、4000kBq/m2の場所は30μSv/h、7500kBq/m2の場所は56μSv/h、20000kBq/m2の場所は150μSv/hという目安を設け@nnistarさんの地図と原発構内のサーベイマップを照らし合わせて作りました。その結果20000kBq/m2以上の場所は原子炉周辺や事務所本館等の空間線量が該当し、原発敷地外にはMP1〜8の値から勘案して存在していないと判断しました。次に7500kBq/m2の地域ですが、原発敷地外で非常に高い線量を記録している夫沢や原発真西の国道6号付近などが56μSv/h以上であることから二つに分けました。次に4000kBq/m2以上の地域に関しては広く30μSv/hの地域ということで空間線量の地図から判断し、また10km圏外でも空間線量調査によって30μSv/h以上の地域がいくつかあった点を加味して北西に延びる細長い線上の地域ということにしました。2000kBq/m2以下については文科省の航空モニタリングの3000kBq/m2の線と1000kBq/m2の線の中間線を辿るように作成し、以下同じような方法で大体のドローイングをしました。

ちなみにこの地図を見る限りチェルノブイリと遜色なく見えるのですが、実はこのチェルノブイリの地図はウクライナの調査のみで隣国ベラルーシやロシアの調査が全く描かれておりません、、この地図をより広範囲に表したものが次の地図です。各々の四角で囲った枠が上記の地図範囲です。

compare.gif
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参考資料
http://www-pub.iaea.org/mtcd/publications/pdf/pub1239_web.pdf (P25 Chernobyl)
http://www.pref.ibaraki.jp/important/20110311eq/20110830_01/files/20110830_01a.pdf (Fukushima)

基本的にチェルノブイリ事故においては放射性物質は北に広大な飛び地をつくっており、拡大図では見えなかった広範囲な汚染が良くわかると思います。ちなみにこちらのチェルノブイリの汚染地図ですが、一体何年に調査をされたものか良く解っていません。IAEAの資料を当たると2000年に発表されたものであるそうですが、同じような地図(ただし若干の違い、写し間違いと思われる部分も記載されている)がwikiにも載っており、

http://en.wikipedia.org/wiki/File:Chernobyl_radiation_map_1996.svg

こちらは1996と書いてあるとおり、いつのものか定かではありません。また福島の地図に関しては、こちらも閾値の違う文科省の航空モニタリングから非常におおざっぱに線を引いたものですから、完全に正確な地図ではありません。またこの地図を作った時は茨城までの調査が終わった段階のもので、群馬や新潟、埼玉等が入っていません。いずれにしろ線の引き方等についての解説は前々回の記事を参考にしてください。

次にこのチェルノブイリの地図では一般的に距離感をつかむのは大変だと思うので、もう一回り広範囲にした地図も掲載しておきます。


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参考資料
http://www-pub.iaea.org/mtcd/publications/pdf/pub1239_web.pdf (P24 Chernobyl)
http://radioactivity.mext.go.jp/ja/1910/2011/09/1910_092917_1.pdf (Fukushima)

ここまで拡大すれば、大体の目安になるかと思います。群馬や柏などのホットスポットがチェルノブイリにおける北欧三カ国の高濃度地域やオーストリアアルプスなどと同じくらい(実際は7割程度の濃度だと思います。北欧の最高濃度は120kBq/m2という場所があったそうですが、群馬において最高濃度は60-100kBq/m2の間であり、しかも該当地域の狭さから精々80kBq/m2がせいぜいだと思われますので)という目安が成り立つかと、またこのチェルノブイリの地図が一体何年に調査されたものなのかが不明(図には1998と書いてありますが調査はもっと前か、それとも事故当初の濃度換算をしているか不明)な点も加味すると、ここまで過剰に評価する必要もないかもしれません。またこの地図においては2kBq/m2以下という閾値がありますが、これは文科省の地図には該当できるものがないため、@nnistarさんの空間線量地図や

https://spreadsheets.google.com/spreadsheet/pub?hl=en&key=0AjgQ0pwrXV8YdGJORHAzdi1qMlFldUMwRkl4V3VfN0E&hl=en&gid=1

こちらの各県庁所在地で行っている放射性物質の降下量調査なども参考にして当てずっぽうながら2kBq/m2以下の地域の地図も線入れさせてもらいました。まあ信憑性の程は非常に怪しいものですが、参考程度に見て頂ければと思います。
posted by mockmoon at 20:25| Comment(331) | TrackBack(0) | 記事