色々なところで騒がれた、プルトニウムが当初発表の2万3千倍という話に関してですが、、
http://togetter.com/li/181184
物理学の知識のない人が、良く調べずにそう解釈したということみたいです。ネプツニウム239という物質がβ崩壊してプルトニウムになるから、同ベクレル数のプルトニウムが発生すると勘違いしたようなのですが、、基本的にそれは間違いだそうです。
そもそもこれは
http://www.meti.go.jp/press/2011/08/20110826010/20110826010-2.pdf
この保安院がIAEAに提出する為にまとめた今回の事故において放出された放射性物質の資料を見た記者さんが、ネプツニウムは半減期2.35日でβ崩壊してプルトニウムに変わるという知識で、この変換がベクレル数(ベクレルというのは1秒間に原子核が崩壊して放射線を放つ回数を表す訳で、一般にある印象としての「放射能」の元素的数ではないです)として等価で行われると勘違いしたのが発端です。要はネプツニウム239は76兆ベクレルという数字を見て、同じ項目からプルトニウム239が32億ベクレルと記載されているのを見て、「このプルトニウム32億ベクレルというのはおかしい!ネプツニウムが76兆ベクレルあるんだから、こいつらは2日で半分がプルトニウムになり、1ヶ月もすれば殆どがプルトニウムに変わるんだから、プルトニウムは32億ベクレルじゃなくて76兆ベクレルになると何故書いてないんだ!」となり、76兆を32億で割って「当初発表よりも2万3千倍のプルトニウム汚染」とやってしまった訳です。
まあ2.35日で半数が崩壊するネプツニウム239と24100年で半数が崩壊するプルトニウム239では1秒間に崩壊によってでる放射線の量も当然違ってくる訳でして、ネプツニウムのほうが遙かに強いんです。ですから、Bq数が1:1で変換される訳など絶対になく、大体数万分の1程度に変換される訳です。
ちなみにチェルノブイリにおいてネプツニウムは一体どれくらい放出されたかと言いますと、
http://www-pub.iaea.org/mtcd/publications/pdf/pub1239_web.pdf
こちらの19ページにある通り、400PBq(40京ベクレル)です。福島ではこれに対して0.076PBq(76兆ベクレル)です。
チェルノブイリのプルトニウム239は13TBq(13兆ベクレル)で、福島が3.2GBq(32億ベクレル)ですから、ネプツニウム、プルトニウム、双方とも福島ではチェルノブイリの0.02%の放出があったということで一致します。
ちなみに以下、放射性物質核種でのチェルノブイリと福島の比較のドキュメントをまとめました。
https://docs.google.com/spreadsheet/ccc?key=0Ai4-DtUU3oRmdFQtRjhkNzJhdW9xSFMtTGhTMnZrWFE&hl=ja
基本的にセシウム汚染の深刻さが際立っていると思います。特にセシウム134に関してはチェルノブイリの放出量の38%にまで達している点は非常に憂慮するべき事態で、またセシウム137の放出量も当初考えられていたよりも多く、チェルノブイリの20%に迫る多さです。ただ日本の場合は太平洋の存在によって、多くが海の上に降下した為、深刻な土壌汚染に関しては、ほぼ100%近くが降下してしまったチェルノブイリと比較すると面積の割合は小さくなっています。もっともその分海の汚染が深刻になってしまいましたが、、、(海洋汚染に関しては後々でまた書こうかと思います。)
後キセノンの放出量がチェルノブイリより多い点を驚かれた方も多いと思います。基本、東京などで事故当初観測された爆発的な線量の増加に関しては、この大量に放出されたキセノンが主要因でしょう。ただ、これは半減期も5日と短く、更にヨウ素ほどベクレル当たりの放射線も強くなく、またヨウ素のように身体の特定部位に貯まるような放射性物質ではない為、原子力災害関連ではそれ程重視されていません。
それと、発表されるたびに値が増えているような印象から、現在でもどんどん放出量が増えて、最終的に汚染地域も拡大すると誤解している方が多いようですが、現時点で線量計や一般の調査等々を見ても解る通り、原発自体からの放出は全体の放出量に影響する程のものは出ているとは考えられません。周辺の汚染地図にある汚染は3月中に降下したものが殆どです。現在も大量に放出されているのだとすれば、周辺の線量計に風向きを勘案した色々な偏りとして現れてくるはずですし、何よりも新たなフォールアウトによる雨水中の放射性物質として必ず周辺地域で計測されるはずですが、様々な調査結果を見る限りその兆候はありません。
では外部への放出に関しては止まっているのかというと、この辺判断が非常に難しいですが、少なくとも原子炉建屋やタービン建屋に貯まった汚染水の実態を見る限り、大気中への放出から、水に溶けて原子炉の外へ流れ出ている状態へと変化したと言えます。それが今でも放出されているのか、薄まっているのかは全く解りませんが、現在処理されている汚染水の数値を計算することで、どれだけの量のセシウムが汚染水として建屋に貯まったのかをうかがい知ることはできます。
http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/images/handouts_110820_02-j.pdf
この滞留汚染水分析シートなど見ると1cc当たり10の6乗Bqのセシウム137があると言われていて、これを単純計算すると15万トンある汚染水(そのうち5万トンは既に処理済み)で150PBqというチェルノブイリで大気中に放出された約2倍という途方もない量になります。この汚染水に関しては濃度分布がどうなっているかは不明ですが、それでも少なくとも100PBq〜300PBqくらいのセシウム137は建屋内に汚染水という形で放出された事は事実かと。問題なのは、再び3月11日のような津波がきた場合、これらの汚染水が海上に流出する危険性がある点です。このまま何事もなく汚染水処理が済めば良いのですが、、
また蛇足になりますが、
http://www.meti.go.jp/press/2011/08/20110826010/20110826010-2.pdf
この経産省資料は各号機毎の汚染物質の推定放出量が描かれており、これを読み解けば、結局放出されたセシウムの約90%は2号機が汚染源の中心であり、爆発した1号機や3号機は当初の印象とは全く違う調査結果であることがわかります。1号機は12日に、3号機は14日に水素爆発を起こした訳ですが、ここでうまく2号機を抑える事ができていれば、汚染の実態は現在の10分の1以下になっていた可能性があった訳で、2号機が15日に圧力抑制室付近で異音がした後に周辺の線量が劇的に増大した当時の経過もこれで証明できる事になります。
このように考えたとき、やはり現在の殆どの原発がそうであるように、原子炉自体をそれぞれ近くに置くことのリスクについて、もっと良く考えるべきだったのではないかと、、1号機の爆発後、政府の情報収集と共有がうまく行かない状態で、電源復旧の作業員や近くで他の作業に従事していた人々が混乱し、避難をした事があったそうですが、、やはり他の号機への対応も近いが故に疎かにならざるを得なかったのではないかと、、、そして3号機の大爆発によって現場の混乱はピークに達した訳でして、、これで2号機がせめて爆発した3号機から2kmくらい離れていれば、何か別の手だてを考えて大放出を抑えることができたのかもしれません。もちろんこれは素人の憶測ですが、この経産省の資料を読み返して何となく思いました。